町の温度を感じながら、門前で働く |
長野市出身ではないわたしにとって、善光寺はわざわざ出かける特別な場所。だからこそ、善光寺門前で日常的に働くこと、それはちょっとした憧れでした。
国宝善光寺を横目に出勤し、お昼には門前の小さな風情ある店でランチをいただいたり、善光寺さんで法要があると聞けば仕事の合間に散歩がてら出かけたり。文房具屋さんに薬局、銀行に郵便局と、ちょっとした買い物やお使いもみんな目と鼻の先。たいていの場所には徒歩や自転車で気軽に出かけられて、しかも善光寺門前ならではのしっとりとした風情が味わえる。それは、仕事の合間に、少しの時間で、大きな心のゆとりを与えてくれる、とても魅力的なことでした。
そうして善光寺門前で働きはじめて5年、今の事務所は問屋街として賑わった「東町」という地区にあります。かつてビニール工場だった建物を、有限責任事業組合「ボンクラ」の仲間7人で改修し、事務所として使うようになりました。築100年を超える事務所は、蔵造りの建物。冬の寒さ、夏の暑さは厳しいですが、太い梁をはじめとした木の温もりや古いものに囲まれた空間にいると、心がすうっと静かになるのを実感できます。
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東町に立つかつてのビニール工場を改修したKANEMATSU。オフィスのほかギャラリーやカフェも営業 |
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町を歩くと、酒屋の3歳になる子どもと手を振り合ったり、八百屋のおじさんと天気の話をしたり、花屋のお兄ちゃんと仕事の話をしたり。えびす講には目の前の通りいっぱいにダルマや熊手を売る屋台が並んだり、夏祭りには大きな御神輿を担いだり、迎えたりと、ただただビルのなかで働いているときには感じなかった町の温度を、ぐっと近くに感じるようになりました。
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事務所を出て、ちょっと散策 |
そんな町の温度を感じられる地区が、善光寺門前にはたくさんあります。そのひとつ、善光寺の西に位置する横沢町をご紹介します。
横沢町の最北は箱清水という地区に接していて、ここに立つのが湯福神社。ケヤキの大樹は市の天然記念物にも指定されていて、妻科神社・武井神社とともに善光寺三社といわれる由緒ある神社です。神社の脇に立つのはカフェトケトケ。空き家だった建物を店長自ら壁を塗るなど改修してオープンした、イタリアンのお店です。善光寺門前にはそば屋など老舗の店舗も軒を連ねますが、ここ数年でレストランやカフェ、ギャラリー、アトリエなど、古い建物を利用した新しい場所が増えてきました。小さいけれど、温かい、本物のもてなしで迎えてくれる場所が多いのも特徴です。
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横沢町かいわいの地図 (2011年1月13日の信濃毎日新聞に掲載したイラストをもとに作成) |
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南へ進みながら脇の路地をふらりふらりと歩くと、八幡社などに出会ったりします。ここを行くと、あそこに抜けるのね、なんて行き当たりばったりに歩きながら近道を開拓するのも楽しいものです。
つづいては創業38年の溝口餅店へ。こちらのお餅の弾力といったら、やみつきになること間違いありません。杏大福や豆餅など定番の商品のほかに、りんごの季節にぜひとも食べていただきたいのが、りんご大福。りんごの酸味とあんこの上品な甘さが絶妙です。
さらに南へ行くと、モンマートとみや、魚屋のきよたき商店、田代青果店などが並びます。かつてはもっとたくさんの商店が軒を連ねていたのだとか。「一時期よりは、だいぶさみしくなっちゃったよ」と溝口餅店のご主人は言いますが、それでもお客を呼ぶ魚屋さんの声や青果店の前にたたずむ大きな大きな看板鶏など、賑やかな趣が残る通りです。
最後は横沢町の南に位置する和菓子屋の喜世栄へ。砂糖を固めた生地であんを包んだ「石ごろも」という和菓子が名物で、とくに抹茶味の石ごろもはほろ苦くて上品な後味を残してくれます。
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横沢町の通り。左手に見える建物がカフェトケトケ。右手は湯福神社 |
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まっすぐに歩いたら10分、15分ほどで歩いてしまえる道も、のんびりと店をのぞき、路地に迷い込んで歩いたら半日は楽しめるのではないでしょうか。善光寺参詣には、ただひたすら善光寺だけを詣でるのではなく、隣りの小さな町もご一緒に。
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初夏ともなるとケヤキの葉がいっぱいに茂ります |
八幡社に向かう小径。周辺にも路地がたくさん |
溝口餅店のりんご大福。甘酸っぱいりんごが絶妙です
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