東日本大震災の復興過程における未来志向のまちづくりの提言
 
平成23年5月18日

特定非営利活動法人 日本都市計画家協会
街なか研究会 空家・空地問題研究部会

 

 東日本大震災の復興は、単に被災地の復興のみ論じれば足りる問題ではない。
 我が国全体のまち、まちづくりをみると、住宅・土地とライフスタイルのミスマッチ等から空き地や空き家が大量に発生する一方で、土地の私権が極度に強く、都市計画規制が緩く、確固たるまちづくり組織が存在しない。
 復興過程においては、こうした現状を改める今後の「まちづくりのモデル」を創造しなければならない。以上の基本的な考え方に基づき、次のように提言する。

1.空き家・空き地の有効活用体制を確立すること
(1) 空き家の活用
 被災者用の避難場所、仮設住宅の提供が行われている。しかしながら、仮設住宅や公営住宅の立地が、被災者の通勤、通学、通院、また求職活動等のうえで被災者のニーズには合わない場合も見受けられる。特に、災害により車を失った被災者が多い状況でこの点は問題である。
 被災者の生活を第一義に考えれば、なるべく個々の事情にあった立地場所での住宅提供を行うことが望ましい。一方、公営住宅等や民間賃貸住宅の提供体制も整えられてきており、より多様性のある選択を可能としている。しかしながら、すでに入居可能な民間賃貸住宅が不足し、希望する住宅を確保することが困難になってきたと考えられる。
 空き家には、借り手のいない賃貸住宅以外に、単に放置され市場にでてこない住宅もかなりあり、上記の状況では、それらを少しでも活用できる仕組みが存在することが望ましい。また災害はこれからもたびたび発生すること、加えて災害の被災者だけでなくいわゆるホームレス、失業者などの住宅困窮者が常時存在しており、賃貸市場にでてこない空き家の有効活用は日頃から必要とされることから、空き家有効活用体制を整備していくことを提案する。具体的には空き家の実態把握、データベース化、またそれを活用する場合の権利関係の整理、利用目的ごとの支援のあり方などの体制を整える必要がある。
(2) 空き地の活用
 被災後は、活用できない土地、活用が進まない土地、所有者不明の土地など、都市内に多くの空き地が発生する。仮設住宅の建設をはじめ復興のための都市開発を円滑に進めるためには、空き地についても同様に平常時から実態把握を予めしておくこと、使用目的がない空き地について強制力をもった活用の仕組みの整備、所有者不明の場合の国有化も含めた公的管理の制度の整備などを進める必要がある。
 東日本大地震を契機として、体制の整備を早急に実施することを提案する。
2.被災地の復興は、永続的なまちづくり会社が民事信託を用いて行うこと
(1) 事業主体−永続的なまちづくり会社
 都市の土地は連担したものであり、お互いに影響を与え合っていることを考え、都市全体についてプロパティマネジメント、タウンマネジメントを一元的に行うまちづくり会社を市町村ごとに創設し、復興事業の中核を担わせる。
 まちづくり会社には、官民から出資する。人材は、行政、地域住民、地場企業をはじめとする民間企業、NPO等から広く結集する。さらに、公費負担で、都市計画や地域福祉等の専門家を年単位で派遣する。
 このまちづくり会社は、復興後は「新しい公共」の一翼として引き続きまちづくり、社会投資プロジェクトやソーシャルビジネスの起業促進を担うものであり、永続的なものとする。
(2) 事業手法−民事信託の活用
 被災地においては所有者の不明な不動産は国有化する。また、他の都市へ移転する者、利用する意思のない者の不動産は国が買い取る。国も含めた土地所有者は、不動産をまちづくり会社に一元的に信託する。建築制限を課し、個々の所有者の建築を認めない。まちづくり会社が計画的に建築する場合のみ、建築制限を解除する。住宅は家賃補助を導入した賃貸住宅とする。
 これにより無計画なバラックの林立を回避する。また、まちづくり会社は、各土地所有者に対し最高度の責任を負う一方、各施設の配置や住民の日常生活等まちづくりにも責任を負うものとする。
 なお、信託契約の内容は、復興の段階ごとに見直すものとする。